第11章 脱税トンネル会社
入社4日目。
ヨシコ社長の会社の一通りのことは分かったような気がしました。
業務内容、財政状況、システム、人事、採用、取引先、顧客から、社長のコンプレックスまで。
１日目 ネットビジネスの教材と５０００万円の預金残高を把握。
２日目 アユミ先輩からのOJTで業務全般と採用面接で人事を把握。
しかもヨシコ社長に誘われ、ヒモ彼氏にまで会いました。
３日目 海外セミナーの手配と対面セッションのお手伝い。
現地コーディネーターや取引先がわかりました。
この会社は書類は一切使わず、すべてクラウドのデータで共有されています。
そのため、私が見ていないデータはもうありません。
ひとつ、気になることがあります。
納税額がオカシイ。
5000万円も売り上げているのに納税額がたったの100万円？
4000万円以上の個人所得の税率は45％です。
経費をたくさん使ったとしても少なすぎる額です。
サラリーマンだってもっと納めています。
ということは、脱税？
ヨシコ社長がやっているネットビジネスにも、対面セッションにも違法性はまったくありません。
しかし、脱税はまぎれもない違法行為です。
会社には顧問税理士がついていました。
私は経理書類をすべて見直してみました。
あ！
黒幕は、ケイスケ氏？
ヨシコ社長の家に居候しているバツイチ彼氏のケイスケ氏。
自称コンサルタントで、同棲している自宅での会話に毎回3万円チャージしているケイスケ氏。
ケイスケ氏は自分でも法人を持っていて自称・社長です。
会社はケイスケ氏ひとりで、業務はこれと言ってないので、実態はありません。
ヨシコ社長の会社は、そのケイスケ氏の会社への支払いが異常なほど高いのです。
一昨日デスクの上でみつけた50万円の請求書もそうです。
ホームセンターあたりで売っていそうな総額5万円くらいの家具が５０万円。
その内訳をみると、相談料とコーディネート料を上乗せしてふくらまして、ヨシコ社長に請求しています。
ケイスケ氏は、単なるヒモ男ではなく、脱税用のトンネル会社までやっている可能性があります。
ヨシコ社長が稼いだお金を経費として自分の会社に払わせて税金を安くし、
その分、浮いたお金をまた、ケイスケ氏のセミナーと称して、1ヶ月のハワイ旅行に使わせる。
残念ながら、私の直感は当たっていたようです。
ケイスケ氏は500％、おカネ目当て。
ケイスケ氏はヨシコ社長に入れ知恵をして、コンサル料をとっています。
経費や税金の件もケイスケ氏が教えたとしか考えられません。
あんなにうれしそうに顔を赤くしてデレデレしていたヨシコちゃんが可哀そうに思えました。
顧問税理士も顧問税理士です。
こんな状況にハンコを押すなんて。
私は納税書類のフォルダのなかに小さな紙が挟まっているのをみつけました。
それは経費計上を指南したメモでした。
自宅の光熱費80％は会社経費として計上。
毎日の外食代はすべて会議費として計上。
洋服は衣装代として計上。
ケイスケ氏とのハワイ旅行はセミナー代として計上。
ケイスケ氏が本当に外部コンサルタントなら合法ですが、
二人は恋人関係？にあり、同棲しています。
二人の外食や旅行を税務署が仕事と判断するでしょうか？
私の目には、完全にプライベートにしか見えません。
顧問税理士も顧問税理士です。
今は税理士や弁護士も余っていて仕事がない時代です。
モラルが低い税理士や弁護士も増えています。
そして、ヨシコちゃんは対面セッションの売上だけは、誰にも見せようとしません。
24時間すべてのお世話をしているアユミ先輩でさえそこはノータッチです。
なぜか？
ネットビジネスからの収入はpaypalや銀行振り込みなので誤魔化しようがありません。
でも、現金受取の場合は？
そう、売上を抜くことができます。
あちゃー、これはマズイことになりそうです。
私も、早くこの会社からおいとましないと、脱税幇助の汚名を着せられかねません。
そして、その機会は思ったよりも早く訪れることになりました。
第12章 につづきます★
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